古都タンロンを感じる列車に乗って

2025年8月19日に開業した「ハノイ五城門文化鉄道/ Ha Noi 5 Cua O(通称:ザ・ハノイトレイン/ The Hanoi Train)」は、ハノイ駅を出発し、ロンビエン(Long Bien)やガーラム(Gia Lam)など趣ある駅を巡りながら、トゥーソン(Tu Son)へと向かいます。2階建ての車内は、旧都タンロン(Thang Long)の城門をイメージした空間が広がり、過去と現在が見事に溶け合っているのが特徴。広い窓に流れる街並みや緑の風景を眺めつつ、心地よい音楽や伝統芸能に触れていると、旅そのものがゆったりと心をほどく時間へと変わっていきます。

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出発前に押さえておきたい基本情報

列車の旅をより深く味わうためには、この列車が携える物語に触れておきたいところです。現在のハノイの地に存在した古都
タンロンを象徴する「5つの城門」がテーマであり、路線の成り立ちや車両の特徴も知ることで、旅の時間に奥行きが生まれます。

列車の当日券は、ハノイ駅の窓口で購入可

 同列車は、ハノイ駅からバクニン(Bac Ninh)省のトゥーソン駅までを半日で巡る往復コースです。トゥーソン駅に到着後は、乗車していた車両番号ごとにシャトルバスへと乗り換え、駅から約2kmのところにあるドー(Do)廟へと移動します。参拝および見学時間は、約1時間です。その後は再びバスでトゥーソン駅に戻り、復路の列車に乗車します。復路ではロンビエン駅で約20分停車し、チェックイン専用の車両で写真撮影を楽しめる時間が設けられています。
 料金は1人 55万 VNDで、2階席なら65万 VND、VIP席なら 75万 VNDです。VIPチケットは、1階と2階の両方を自由に行き来できる特別仕様となり、より快適な車内体験を求める旅行者に適しています。運行時間は8時から11時30分、13時30分から17時の二部制で、日帰りで参加しやすいスケジュールが組まれています。

列車の乗り場までもワクワク気分が止まらない

電: 1900-2695
URL: https://hanoitrain.vn

各車両に城門名が記され、伝統衣装を纏ったスタッフが笑顔で出迎えてくれる
(画像出典:Wikipedia)
ハノイに残る貴重な城門遺構「オークアンチュオン」

 1010年頃から18~19世紀にかけてのハノイは、城下町として外敵の侵入を防ぐために城壁が築かれ、その出入口に多くの城門が設けられました。時代の移り変わりとともに城壁は姿を消しましたが、オークアンチュオン(O Quan Chuong)、オーカウゼン(O Cau Den)、オードンマック(O Dong Mac)、オーカウザイ(O Cau Giay)、オーチョーズア(O Cho Dua) の5つの城門は、ハノイの原風景を象徴する存在として残されてきました。五城門は交易の往来を見守り、夜間の警備や治安維持の役割を担い、街の歴史と暮らしを静かに見守ってきたタイムマーカーのような存在です。
 この5つの城門に込められた物語を手がかりに、列車はハノイの古き街路をイメージしたデザインコンセプトを採用。かつて城門を抜けて人々が旅に出たように、乗客が新たな景色へと踏み出す、そんな歴史への敬意と旅情を重ね合わせた車両となっています。

門の名を冠した車両が語る街と文化のストーリー

ハノイ五城門列車の魅力は、ただ移動手段として利用できるだけでなく、車両ごとで異なる物語と美意識が息づく特別な世界観にあります。乗り込むだけで、ハノイの歴史と文化を多層的に感じられる体験が始まります。

現代的な装いにベトナムの伝統美を織り交ぜた、同列車ならではの特別な空間

 列車は2階建てです。各車両には5つの城門の名が付いており、配給制の時代を思わせる素朴でノスタルジックな空気が漂っています。「オークアンチュオン」と「オーカウザイ」では、ロンビエン橋をモチーフにした装飾が施されており、古都の風景を静かに映し出しています。「オーチャーズア」はネオクラシック調の華やかさが際立ち、「オードンマック」は古い集合住宅や民間絵画のモチーフが、庶民文化の温度感を伝えます。
 加えて、大きな窓を備えた「チェックイン車両」では、街並みを背景に写真撮影を楽しめる開放的な空間が広がり、旅の記録を美しく彩ります。空調完備の2階建て構造と快適なシート、そして各車両に宿る物語性が、文化を体感するひと時へと昇華させます。
 列車の移動中、カフェストリートやフンフン(Phung Hung)通り、ロンビエン橋などを通過する際は、案内アナウンスが流れます。ロンビエン橋に差し掛かるタイミングは2階席からの眺望が格別です。

1階車両はゆったりとした造りで、席数も多く快適に過ごせる
色鮮やかなクッションと木の温もりが心地よい、
景色を楽しむためのくつろぎスペース
2階はガラスの天井が広がっており、写真映えスポットとしても注目されている

列車内で楽しむハノイの多彩な魅力

列車が走り出すと、窓辺に広がるハノイの景色や車内に飾られたアート、心に響く民族音楽、そして味わい深い料理が旅を豊かに彩ります。移動時間の中でも、ハノイの文化そのものに触れられます。

カフェが立ち並ぶトレインストリートを通過する際は、電車を撮影する人でいっぱい
列車がロンビエン橋に入ると、古びた鉄骨が目に飛び込んでくる

 列車の窓越しには、活気あるハノイの街並みと、人々の日常の様子が広がり
ます。列車は市内中心部を走行し、まずは 「線路の両側に住宅 」が密集したト
レイ 」ンストリートを通過し、ロンビエン橋へと向かいます。刻々と変化する車
窓の風景から、ハノイならではの都市の姿を感じ取ることができます。

賑わう街並みが車窓から見え、ハノイらしい躍動感が伝わってくる

 列車内で、とりわけ魅力的なのが チェックイン車両 です。ロンビエン橋に着想を得たこの特別車両は、開放感のあるオープンな造りが特徴です。二層構造の空間には、撮影スペースやベンチがバランスよく配置され、思い思いのスタイルで記念撮影を楽しむことができます。デッキに立てば、ゆっくりと移り変わるハノイの街並みや郊外の風景が視界いっぱいに広がり、風を感じながら列車旅ならではの時間を味わえます。

まるで映画のワンシーンに入り込んだような美しいスポット
外の景色を撮影するべく、2階に集まった乗客
車内は上品で温かみのある空間で、おしゃべりやカフェタイムにぴったり
伝統衣装アオトゥータン(Ao Tu Than)に身を包み、歌い上げる芸術家

伝統芸能

 車窓からの景色を眺めるだけでなく、伝統芸能を身近に楽しめる文化体験も用意されています。車内では、北部ベトナムを代表する民謡クアンホー(Quan Ho)のほか、同じく人気民謡のサム(Xam)やチェオ(Cheo)も披露されます。観客は、出演者と交流することも可能です。

チェオやクアンホーを披露する芸術団

伝統菓子

バナナの葉に包まれたコムは、甘く香ばしく、まさにハノイの味といえる
砂糖をまぶした揚げ餅は、その甘さがクセになるハノイ定番のおやつ
ハノイの風景と列車名が描かれた、可愛らしいパッケージが特徴のジャスミンレモンティー

 ハノイならではの伝統的な味覚も楽しめます。もち米コム(Com)やジャスミンレモンティー、甘い揚げ菓子といった地域の名物が提供され、音楽に耳を傾けながらハノイの風味をゆっくりと味わえます。これらの一品一品は、素朴でありながら奥深い味わいを持ち、北部ベトナムの食文化を感じさせる存在です。車窓の風景とともに、五感で楽しむ列車旅を完成させてくれます。

李王朝の始まりを現代に伝える寺へ

列車の終着点からは、バスでドー寺に向かいます。トゥーソン市にあるこの由緒ある寺院は、李王朝(1009年~ 1225年)最初の皇帝・李太祖(Ly Thai To)をはじめとする八代の皇帝が祀られている聖地です。

スピリチュアルなスポットとして人気を博し、毎日多くの観光客が訪れる

 ドー寺は、11世紀ごろに創建されました。王朝の発祥地であるコーファップ(Co Phap)の地に建てられ、以降、王家の祖先を敬い、国の安泰を祈る重要な信仰の場として大切に守られてきました。200年以上にわたり栄華を誇った李王朝の精神と歴史を今に伝える存在として、ドー寺はベトナムの人々にとって特別な意味を持っています。静かな境内に一歩足を踏み入れると、王朝の記憶とともに、時の流れを超えた厳かな空気が感じられます。

李王朝八代の皇帝を讃える漢文の石碑が、境内で静かに歴史を語り続けている
トゥーソン駅に到着すると、伝統衣装を身にまとった人々が出迎えてくれる
古風な趣と、信仰の場ならではの厳かな雰囲気を併せ持っているドー寺の門
祈りの香煙が立ちのぼる、ドー寺の神聖な参拝風景
寺のベテラン案内人、グエンドゥックティン(Nguyen Duc Thin)さんが
歴史を解説
金色の舟が水面に揺れ、クアンホーの歌声とともに伝統的な情緒が広がっていく

 ドー寺の境内では、まず参列者全員で献香を行い、手を合わせます。長年この地に携わってきた案内人の解説に耳を傾け、歴史や文化にまつわる物語を丁寧に知ることができます。
 その後、水上楼閣へと場所を移し、北部を代表する民謡の歌唱が披露されます。澄んだ歌声が水面に響き渡り、訪問者はその情感豊かな世界に静かに引き込まれていきます。歌の合間には、キンマの葉とビンロウジュの実が原料の噛みタバコ・トラウカウ(Trau Cau)が勧められ、歌い手との交流も生まれます。

静けさと荘厳さが調和する美しい水亭の景色

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