ベトナムの旧正月「テト(Tet)」は、旧暦の正月として毎年1月下旬から2月上旬にかけて迎えられます。今年のテト(元日)は新暦で2026年2月17日(火)にあたり、その前後は国をあげて連休となり、街や家庭が新年ムードに包まれます。一年の節目となるこの時期、人々は家族と集い、先祖に感謝を捧げながら、新年の無事と幸せを祈ります。住まいを整え、花や供物を飾り、伝統料理を囲む時間を過ごします。日常とは少し異なる、穏やかな空気が街や家庭を満たします。テトは、暮らしの中に深く根づいた、新年の大切な風習です。
テトの歴史と意味を知る、新年の文化と風習
新年を祝うテトは、単なるお祭りではありません。人々の暮らしや価値観の形成に深く根づき、自然と共に生きてきた歴史や、世代を越えて受け継がれる精神文化が息づいています。そんなテトの成り立ちや意味を、街や家庭の風景とともにひも解いていきましょう。


ベトナムの旧正月「テト」は、古くから続く伝統行事で、文化の根幹をなす存在です。正式には「テト・グエン・ダン(Tet Nguyen Dan)」と呼ばれ、旧暦に基づき新しい年の始まりを祝います。その起源は、稲作を中心とした農業社会に根ざし、自然の循環や季節の移ろいを大切にする考え方から生まれました。
中国の旧正月文化の影響を受けつつも、長い歴史の中で独自の形に発展しました。とくに祖先を敬い、家族のつながりを重んじる価値観が色濃く反映されています。王朝時代から庶民に至るまで、一年の最も重要な節目として位置づけられてきました。
人々にとってテトは、過去の一年を振り返り、祖先に感謝を捧げ、新しい年の平安と幸せを願う時間です。家族や血縁の絆を改めて確かめ、人との関係を大切にする意味も持っています。こうしたテトの精神は人々の生き方そのものを象徴しています。
街も家庭も準備に沸く、テト前のにぎわい
テトを迎える前、街も家庭も徐々に新年の雰囲気に包まれます。人々は日常の合間に買い出しや支度を進めながら、慌ただしくも期待に胸が膨らむ日々を過ごします。

テトのおよそ2週間前から、各家庭では本格的な支度が始まります。一年の中でも特に忙しい時期で、街全体が活気に包まれます。
欠かせないのは、新年に向けた買い出しです。先祖に供える料理や、家族で囲む特別な食事のため、肉や野菜、乾物、調味料などをまとめて購入します。市場やスーパーは連日混み合い、色とりどりの品物と人々の熱気にあふれています。
多くの家庭では、バインチュン(Banh Chung)やバインテト(Banh Tet)などの伝統的な餅作りも行われます。家族が集まり、材料を準備し、時間をかけて餅を包んで煮る作業は、絆を深める大切な時間です。
また、親族やお世話になった人の家を訪れる際には、お菓子や果物の詰め合わせを持参し、新年を迎える前に感謝を伝えて関係をつなぎます。家には桃や梅の花、金柑の木が飾られ、新年の幸せや繁栄を願う気持ちが表れます。街や家庭には、テト前ならではの華やかな雰囲気が広がります。




家族と紡ぐ、テトの最初の三日間
テトの最初の三日間、家庭では新年の節目を意識して過ごします。先祖への供養、家族との団らん、親族訪問や寺院参拝など、一つひとつの行事に新年への願いが込められています。



テトは旧暦の大晦日から始まり、元日を含む最初の三日間が特に重要とされています。大晦日には一年の締めくくりとして先祖を迎え、元日から三日目までは、新しい年の始まりを静かに見守ります。
元日から三日目まで、毎日供え物の膳が用意されます。米飯や餅料理、肉料理や煮物など、新年にふさわしい料理が並び、先祖への感謝と新しい年の平安や豊かさを願う意味が込められています。
人々は新しい服を身にまとい、家族写真を撮って思い出を残します。親族や近しい人の家を訪れて挨拶を交わし、子どもたちは「リシ(Li Xi)」と呼ばれる赤い袋に入ったお年玉を受け取ります。

歴史と祈りに包まれる、北部テトの特徴
北部のテトには、寒さの残る季節ならではの静けさと、伝統を大切にする暮らしが色濃く表れます。先祖供養や家族の集まりを中心とした過ごし方が、今も変わらず受け継がれています。




北部のテトの特徴の一つが、先祖供養を中心とした過ごし方です。正月の数日間、各家庭では仏壇を整え、祖先を迎えるための供え物を用意します。とくに元日から三日間は供え物を欠かさず、静かに新年を迎える姿勢が重んじられています。
食文化も、北部のテトを特徴づける大切な要素です。代表的なのが、四角い形をしたバインチュン。土地や大地を象徴するとされ、家族の繁栄を願う意味が込められています。塩漬け野菜や煮物など、素朴で保存性の高い料理が多いのも北部ならではです。
北部のテトは厳かな雰囲気を持つことでも知られています。寒さの残る季節の中、人々は派手な祝いよりも、家族と静かに過ごす時間を大切にします。新年には親族や目上の人を訪ね、丁寧な挨拶を交わすことが重視されます。
街の風景では、桃の花が北部のテトを象徴する存在です。家庭や市場に並ぶ淡い色の花は、新しい年の始まりと春の訪れを告げます。
街と暮らしが華やぐ、南部テトの特徴
南部のテトは、温暖な気候の中で迎えられ、明るく開放的な雰囲気が特徴です。家族や親族の集まりに加え、人との交流や喜びを分かち合う文化が、暮らしの中に自然と息づいています。






南部では、テトの時期も穏やかな天候が続き、屋外で過ごす時間が増えます。青空とやわらかな日差しの下、街や家庭は新年を祝う装飾に彩られ、晴れやかな空気に包まれます。
南部のテトを代表する花は、黄色い梅の花です。黄色は幸福や繁栄を象徴する色とされ、家庭や街中に飾られます。菊やマリーゴールドもよく用いられ、正月ならではの明るく華やかな風景を作り出します。
食文化にも、南部らしい特徴が見られます。正月料理の中心となるのが、円筒形のバインテト。もち米を使った餅料理で、家族の団らんや豊かさを象徴する存在として親しまれています。さらに、豚肉と卵をココナッツウォーターで煮込んだ「ティット・コー・タウ(Thit Kho Tau)」や、苦瓜の肉詰めスープなど、縁起を担いだ料理が食卓に並びます。油分の多い料理には、らっきょうの甘酢漬けを添えるのが定番です。
テトの期間中、人々は親族や知人の家を訪れて新年の挨拶を交わし、子どもたちはお年玉を受け取ります。家の中には笑顔と楽しげな声があふれ、明るい色彩や豊かな料理に彩られた南部ならではの新年の雰囲気が広がります。
新年の幸せを願って、春の外出へ
テトを迎える時期、ベトナムでは「春の外出」と呼ばれる習慣が楽しまれます。家族や友人とともに外へ出かけ、寺院を参拝したり街を散策したりしながら、新年の幸運を願う時間です。日本の初詣に近い意味合いを持ちながらも、形式にとらわれず、街や自然の空気を感じながら過ごすのが特徴です。
北部

北部では、信仰や歴史と深く結びついた場所を訪れる過ごし方が主流です。ハノイでは、学業成就を願って「文廟・国子監/Van Mieu Quoc Tu Giam」を参拝する人が多く、テトの時期を象徴する風景の一つとなっています。市内では、鎮国寺や一柱寺も新年の平安を祈る参拝先として親しまれています。
郊外に足を延ばす人も多く、春祭りで知られる香寺や、山岳信仰の地として名高いイエントゥー(Yen Tu)山を訪れ、自然の中で新年を迎える姿も見られます。また、バッチャン(Bat Trang)陶器村など、伝統工芸の村を散策しながら穏やかな時間を過ごすのも、北部ならではの楽しみ方です。


南部

南部の春の外出は、明るく開放的な雰囲気の中で、街のにぎわいを楽しむ過ごし方が特徴です。ホーチミン市では、テトに合わせてヴィンギエム(Vinh Nghiem)寺やジャックラム(Giac Lam)寺を参拝し、健康や商売繁盛を願う人の姿が多く見られます。
また、テトの時期に開催されるグエンフエ(Nguyen Hue)通りのフラワーストリートは、南部を代表する新年の名所です。色とりどりの花や干支をモチーフにした装飾が並び、家族連れや若者でにぎわいます。さらに、郊外ではミトー(My Tho)やベンチェー(Ben Tre)などメコンデルタの水郷地帯を訪れ、川の風景や自然を楽しみながら新年を過ごす人も少なくありません。

