ベトナムで再発見する、日本のお茶の魅力

在ベトナム歴10年。ハノイのIT企業にマネージャーとして赴任後、週刊誌のライター、現地スイミングスクールの代表を経て、現在はアニメーションスタジオのマネージャーを務めている日比靖昌さんが、ダナンで見つけたアレコレについて語ります。
FB: ひび やすまさ

路地裏の中にある小さなお茶屋さん。大きな窓から店内の様子を覗くことができる
落ち着いた気持ちで薄茶を楽しむ。ちなみに写真は2杯目
「抹茶ラテ」を作る同店のマネージャー。日本的な装いではないが、侘び寂びを感じる
「抹茶ラテ」はホットかアイスで選択可。アイスはカクテルグラスで飲むスタイル

父を思い出す茶の時間

 亡き父は、着物を着て茶会に参加するなど、お茶を趣味の1つとしていました。自宅で家族全員が揃っている時には、茶室で薄茶をみんなに淹れてくれることもありました。子どもの頃はその様子をただ眺めているだけでしたが、歳を経ると、その静かで落ち着いた時間に魅力を感じるようになっています。
 私自身は茶道には足を踏み入れてはいませんが、最近では茶道の所作や茶器に込められた意味などにも興味が出てきていると感じます。今回、ダナンで宇治の薄茶が飲める茶屋があるということで行ってみました。
 同店は、黒を基調としたこぢんまりとした空間で、明るい照明が優しい雰囲気を作っています。静かに流れる時間の中で、普段の喧騒を忘れ、ゆったりとした気持ちでお茶を味わうことができます。お茶は壁に飾られている茶碗の中から指定して、それで飲むこともできます。私は1杯目に漆黒の茶碗、2杯目は赤茶色の茶碗で薄茶を飲みました。器が変わると、同じ薄茶でも香りや味わいの印象が変わるのが面白く、父が「茶会では茶器、茶碗のうんちくを話すのだ」と言っていたことを思い出しました。

新感覚の茶体験

 オーナーはベトナム人で、面白いなと感じたのが、茶道をベースに和風のエンタメや独自のアレンジが加えられているところです。私が座ったカウンター席のテーブルには30cm四方の白い砂のプールがあり、茶を出す前に、枯山水の庭として飾り付けをしてくれました。その手際の美しさに見惚れながら、目の前の空間に集中する時間は、まさに非日常の体験でした。
 薄茶に馴染みがない人向けには抹茶ラテも用意されており、気軽に楽しめる工夫もされています。こうして、センスあるベトナム人が日本のお茶をプロデュースすると、伝統を守りながらも新しい楽しみ方が生まれるのだと、改めて感心しました。
 ちなみに、最近のニュースで、抹茶が世界的なブームとなっており、抹茶の葉の価格が年間で3割程度値上がりしているという記事を読みました。ベトナムでもこのような茶屋が生まれていることを考えると、茶の味わいだけでなく、その演出や空間全体を含めて楽しむ体験は、日本でも海外でも、年齢や国を問わず新鮮に感じられるのだと実感します。世界各地で、それぞれの国ならではにアレンジされた抹茶の楽しみ方があるのかもしれませんね。

枯山水風の小さな庭の上に出されたお茶。日本人にはなかなか思いつかないアイデア
店舗は小規模だが、カウンター席、テーブル席、座敷席の3種を設置
壁に飾られた茶器やお茶碗。この中から好みのお茶碗を選ぼう
日本の和のセンスを感じられるロゴと看板

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