過去から未来へと紡ぐ過去から未来へと紡ぐ

ホーチミン市の中心部を流れるサイゴン(Sai Gon)川は、現代都市の躍動の中で静かに流れ続け、300年以上もの間、さまざまな歴史を刻んできました。両岸には、ニャーロン(Nha Rong)港、バーソン(Ba Son)橋、バクダン(Bach Dang)港など川の歩みを語る上では外せないスポットが点在しているほか、近年はウォーターバスや川沿いの公園の整備、新しい建築群も誕生しており、過去と未来が融合した新たな物語が描かれるようになっています。

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川岸から1000 年の時の流れを感じる

アジアでも有数の活気あふれる都市として知られるホーチミン市は、1975年のベトナム戦争終結前はサイゴンと呼ばれていました。その都市の真ん中をサイゴン川は通っており、街の歴史と文化を映し出す鏡として親しまれています。

川の静かな流れと高層ビル群が織りなす風景は、ホーチミン市ならではの表情

 サイゴン川は街の発展を支える大動脈であり、市内の都市景観の象徴でもあります。流域には古くから人々が暮らし、川を通じて商いが広がり、文化が育まれてきました。
 サイゴン川の全長はおよそ256km。ビンフオック(Binh Phuoc)省のロックニン(Loc Ninh)郡にあるラーチチャム(Rach Cham)地区を源流とし、タイニン(Tay Ninh)省、ビンズン(Binh Duong)省を経てホーチミン市の中心部を通り、最後はナーベー(Nha Be)地区にあるドンナイ(Dong Nai)川へと合流します。
 古来より、この川は水源や交通の道としてだけでなく、ベトナム南部の歴史や文化、そして変化を見守ってきた存在でもあります。川辺の船着き場には商人の舟がひしめき合い、両岸には村や街、市場や港が次々と生まれていき、サイゴンは古くから国際貿易の玄関口として発展してきました。
 川沿いには、歴史や街の息吹を感じられる名所が多数存在します。故ホー・チ・ミン主席ゆかりのニャーロン(Nha Rong)桟橋から、バーソン(Ba Son)造船所跡、緑豊かなリバーサイドパーク、クルーズ船が発着するバクダン(Bach Dang)船着き場など、いずれもサイゴン川の魅力を映し出してくれるスポットです。

サイゴン川の流路を示す地図。源流まではホーチミン市内から車で2時間の距離にある
洞窟内はカラフルな灯りに照らされ、幻想的で壮麗な美しさを醸し出している
サイゴン川に映るホーチミン市の夜景。まるで光の饗宴とも言える絶景

歴史が大きく動いた重要スポットを知る

サイゴン川にかかるニャーロン(Nha Rong)桟橋は、かつて世界中の船が集い、東洋と西洋が交わる玄関口として賑わいました。当時の面影を残す赤い屋根の建物は、今も川辺に堂々と佇み、都市の変遷を静かに見守っています。

© Wikimedia Commons(Public Domain)

1866年頃のニャーロン桟橋の様子

ニャーロン桟橋
Ben Nha Rong

 1911年6月5日、若き日のグエン・タット・タイン(Nguyen Tat Thanh、後のホー・チ・ミン主席)が、同所からフランス船アミラル・ラトゥッシュ=トレヴィル号に乗り込み、ベトナム独立への道を探る旅に出ました。これは、ベトナム民族による歴史の重大な始まりの瞬間として伝えられています。
 かつての桟橋付近はサイゴン港の中心部として、東南アジア屈指の国際港として栄えていました。世界各地から集まる貨物がここで荷揚げされ、サイゴンの街に活気をもたらし、極東の真珠と称される繁栄を築き上げました。

大型帆船が寄港し、当時のサイゴン港の国際的な賑わいを伝える1890年頃の写真
サイゴン川から望む「ベン・ナロン」、1920年代、遠洋船が寄港した風景。
20世紀初頭、ベン・ナロン前に集まる交易の小舟と人々の賑わい。

ホーチミン博物館
Bao Tang Ho Chi Minh

 ベトナム戦争中は米軍の管理下に置かれ、戦争の象徴でもあったニャーロン桟橋は、1979年に改装され、現在はホーチミン博物館として一般公開されています。館内は約1500㎡の広さを誇り、2万点以上の資料や写真、遺品を収蔵しています。展示は、故ホー・チ・ミン主席の少年時代や海外での活動、独立革命の指導から抗仏・抗米戦争、そして世界の人々との交流までと、多岐にわたります。
常設展示に加え、特別展や教育プログラムもあり、訪れる人々に歴史をより深く学ぶ機会を提供しています。故ホー・チ・ミン主席の生涯と業績を伝えると同時に、同地の歴史的背景を後世に継承する役割も担い、単なる遺産保存の場にとどまらず、民族の歩みと現代都市ホーチミン市を繋ぐ架け橋として存在しています。

住: 1 Nguyen Tat Thanh, Xom Chieu, HCMC
営: 7:30~11:30 / 13:30~17:00
休: 月曜
料: 無料

故ホー・チ・ミン主席への敬意を示し、静かに祈りを捧げる空間も設置
館内では故ホー・チ・ミン主席の遺品を多く紹介し、歴史の重みを伝えている
ホーチミン博物館から眺めるサイゴン川の風景
シンプルながらも厳かな雰囲気が漂う展示空間
赤レンガと龍の装飾が印象的なホーチミン博物館の外観
バーソン造船所で働いていた人々は誇りを持って働き、労働の象徴だった

バーソン造船所
Xuong dong tau Ba Son

 現在のバーソン橋がある一帯には、ベトナム最古の造船拠点として知られるバーソン造船所がありました。同所はフランス統治時代の1863年から東南アジア屈指の造船拠点として栄え、多くの熟練工や労働者が汗を流した場所でもあります。周辺は、金槌の響きや旋盤の音が鳴り響き、塗料の匂いが漂っていたといいます。この地で若き日の故トン・ドゥック・タン主席も機械工として働き、後に労働者階級を代表する指導者へと成長していきました。
 2015年になると、その役目を終えたバーソン造船所は取り壊され、旧跡地にはバーソン橋が掛けられたほか、55階建ての最新の商業・オフィス複合の「マリーナセントラルタワー」やリバーサイドパークなども整備され、近代都市ホーチミン市を象徴する新たなランドマークとして生まれ変わりました。

ホーチミン市都市鉄道1号線のバーソン駅前は、緑あふれる公園となっている
川沿いに残っている船を繋ぐ杭は、造船所の名残を今に伝えている
バーソン造船所が存在していた当時の写真と見比べると、辺りは驚くほどの発展を遂げた
当時のバーソン造船所が再 現された模型の展示室

トンドゥックタン博物館
Bao Tang Ton Duc Thang

 旧バーソン造船所に隣接するかたちで1988年、トンドゥックタン博物館が開館しました。同博物館では、故トン・ドゥック・タン主席の生涯と業績を多角的に紹介しています。館内には約1万6000点を超える資料や遺品が収蔵され、バーソン造船所での労働の日々や労働運動、革命活動、国家主席としての歩みまで幅広く展示。常設展に加えて企画展や教育プログラムも用意し、訪れる人々に学びと感動を与え続けています。

住: 5 Ton Duc Thang, Sai Gon, HCMC
営: 7:30~11:30 / 13:30~17:00
休: 月曜
料: 無料

館内はベトナム語と英語を併記。当時の貴重な写真や資料が見られる
故トン・ドゥック・タン主席に関する資料のほか、当時の経済や社会、政治を映し出す貴重な情報も展示

生まれ変わった地で歴史の足跡を辿る

過去に交易等で賑わったサイゴン川沿いの名所は、今や全く異なる姿へと変貌を遂げました。現在は屈指の散歩スポットとして人気を集めており、特に夕暮れ時の夕焼けに染まったサイゴン川の水面を見ると、都市の喧騒を忘れさせてくれるひと時を過ごせます。

休日に憩いを求める市民にとって同公園は欠かせないスポット
川沿いの遊歩道に登場したストリートスタイルのカフェ「レンケン」は今、若者たちの撮影場所として賑わっている
デザイン性に富んだスケートボードエリアにはエネルギッシュな若者たちが集う

サイゴンリバーサイドパーク
Saigon Riverside Park

 同公園がある地区に存在していたサイゴン港は150年以上の歴史を誇り、かつては南部最大の交易の玄関口として、米やコーヒー、ゴムをはじめとする農産物を世界へと送り出していました。市内の発展が進むと、港の機能は次第にヒエップフオック(Hiep Phuoc)やカットライ
(Cat Lai)といった郊外の港湾エリアへと移管され、サイゴン港は「サイゴンリバーサイドパーク」として生まれ変わりました。
 緑豊かな同区間では、市民や観光客が川辺を散策しているほか、スポーツや文化イベントが頻繁に開催されます。また、スケートボードが楽しめるエリアや、アイスクリームやかき氷などを提供する「レンケン/Leng Keng」をはじめとするトレンド感あふれる店舗も続々とオープンし、若者たちの新しい交流拠点として賑わっています。

「レンケン」の「アヒル型のかき氷とアイス」(7万9000VND)は可愛さ抜群!
開放感を感じる公園内は、キャンプやジョギングなどのアウトドアの楽しみにぴったり

橋や船から市内の未来を見据える

サイゴン川では、多くの旅客船や商船が行き交い賑わいを見せる一方、出会いや別れ、友情や愛の物語も育まれてきました。時代と共に形は変われど、今後もさまざまなストーリーが織り重ねられていくに違いありません。

© John A. Hansen

サイゴンの玄関口として賑わっていた1966年頃のバクダン桟橋ふ頭の様子
バクダン桟橋はサイゴン随一の商いの地、交流の拠点として栄えていた
現在のバクダン桟橋から臨むサイゴン川。著しく発展を遂げる街の様子を静観できる

バクダン桟橋
Ben Bach Dang

 ベトナム戦争終結後、同桟橋には遊覧船が発着したり、水上レストランが運営されたりと、独自の風景を形作っていました。年が経つにつれその賑わいは廃れていってしまい、緑地と遊歩道を備えた落ち着きのある風景が広がるようになりました。
 しかし、近年は再び注目を集めています。例えば、ホーチミン市からトゥードゥック(Thu Duc)市、ビンアン(Binh An)市、リンドン(Linh Dong)市へと結ぶウォーターバスが運行するようになりました。新しい水上交通の形は、都市の持続可能な発展を見据えた文明的な試みでした。それと合わせるかたちで、クルーズ船やウォーターゴー(Water Go)といった多様なリバーサイド体験も可能になり、サイゴン川は街の観光の顔となりつつあります。
 夜が訪れると、高層ビル「ランドマーク81」や「ビテクスコ」、さらに新都市開発が進むトゥーティエム(Thu Thiem)地区の岸辺に灯る明かりが水面に映り、都市の躍動と華やぎを描き出します。かつて蒸気を上げながら出航した船影の残像は、今は穏やかに波間を進むウォーターバスへと姿を変え、独立の夢から持続的発展の希望へと物語が連なっています。

ウォーターゴー
Water Go

 2023年12月に登場した、2階建ての観光用リバーボートは、サイゴンの新しい楽しみ方を広げています。ボートで川沿いをゆったりと進みながら、ベンニャロン(Ben Nha Rong)桟橋、ビテクスコ、ランドマーク81など、市内を象徴する風景を次々に眺められます。
 所要時間は約45分。特に夕暮れや夜の便では、川面に映る街の光が幻想的な景色を作り出し、地元民や旅行者を魅了します。運航は1日6 ~ 9便と比較的多く、短時間ながら濃 密 な 体 験 が 可 能 です。座 席 は、一 般 の「キャビンシート(Cabin Seat)」(17万9000VND)、窓付近の席で風を感じられる「リバーシート(River Seat)」(23万9000VND)、ボートの屋上から全景を一望できる「スカイシート(Sky Seat)」(33万9000VND)の3種。ドリンクの提供や音楽演奏もあり、洗練されたひとときを楽しめます。

人気の観光地へと生ま れ変わったバクダン桟橋には多くの観光客が詰め寄せている

住: 10B Ton Duc Thang, Sai Gon, HCMC
営: 1900-636-978
Email: booking@saigonwatergo.com
URL: https://saigonriversightseeing.com

船旅中はヴァイオリンの生演奏にも酔いしれ、優雅なひと時を過ごせる
船のデッキからは高層ビルがそびえたつ街の景色に圧倒される
ウォーターゴーのチケットを購入すると、アイスクリームが1つ付いてくる
船旅中はヴァイオリンの生演奏にも酔いしれ、優雅なひと時を過ごせる

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