「おしん」と聞いて当時のテレビドラマがぱっと浮かぶのは昭和世代でしょうか。歳幼いながら奉公に出て苦労する姿には、日本だけでなく海外でも話題となりました。ベトナムもその例外ではなく、現代でも「おしん」という言葉はベトナム人に根付いています。今回はベトナムのおしんについて書きます。
ベトナム人にとっての「おしん」
おしんは1983年に日本で放送されて以降、世界68カ国で放送されるようになりました。ベトナムでは1994年に放送され、貧しい少女の苦難や健気さ、その後の人生は当時多くのベトナム人の心を打ったと言われています。おしんはベトナム語でも同じように「ô-sin」と言われていて、ベトナム人なら誰でも知っている言葉として現代にも根付いています。ちなみに現代では「ô-sin=家事労働者」の意味となっていて、家政婦やハウスキーパーなど真面目にせっせと働く人を指す言葉としても使われています。
悪い意味での「おしん」
ベトナムでの「おしん」は、ドラマあるいは家事労働者を指す言葉として使われる一方、時に否定的な意味で使われることもあります。例えばワンマンで家事育児などをしている妻がキレて、「私はあなたのおしんじゃない!」というのはその典型です。この場合、奉公人のような意味合いで使われているわけですが、ベトナムでも旧時代的な考えから家事や育児は女性がするものと考える男性は一定数いますので、こういった夫婦関係を揶揄して「おしん」という言葉が使われることがあります。最近では、結婚前のカップルで彼女のために何でもやってあげる男性版おしんも生まれているようです。
ベトナム人に好まれやすいドラマ
ベトナムで高い人気を誇るドラマをみると、そのほとんどが家族をテーマにした内容であることが分かります。今風のイケてる男女が出演している恋愛ドラマでも、それだけで人気を博すのは難しく、何かしらの形で家族を絡ませる展開に持っていくことが多いです。こういった構成もベトナム人の家族観に強く影響を受けていることがうかがえます。また、親子の愛情をテーマにしたドラマでは、「母親と息子」あるいは「父親と娘」の組み合わせが多く、ベトナムでは一般に異性間の親子のほうが愛情深くなりやすいと考えられているようです。日本では大人になっても息子が母親に固執しているとマザコンのレッテルを貼られてしまいますが、ベトナムでは息子はそういうものと認識されていますので、嫁姑問題などで夫が過度に姑贔屓になるようなことをしない限り、あまり否定的に言われることはありません。
著者
稲田 琢磨
SESSA VIETNAM CO.,LTD代表
プロフィール
ベトナムで7年ほど人材関連の仕事に従事し、2021年人事コンサルティング会社SESSA VIETNAMを企業。「人材紹介」「人事労務相談」「労働許可書取得代行」などのサービスを中心に企業、求職者向けの人事コンサルティングを展開。
日常でベトナム人を観察しながらベトナムの「なぜ・なに」を考えるのが日課となっている。座右の銘は「為せば成る、なるようになる」
【公式HP】https://www.sessa-jp.com