ベトナム人にとってのベトナム語の発音

 ベトナム語の発音は難しい…。ベトナム語の学習経験がある日本人ならほとんどの人が感じることで、途中で学習を挫折する理由の代表的なものとなっています。しかし、ベトナム人がベトナム語の発音を習得する過程を知れば、少し考え方が変わるかもしれません。今回はベトナム人がベトナム語の発音を習得するまでの道のりについて書いていきます。

幼児がベトナム語の発音を習得するまで

ベトナムでも読み書きは日本と同じく小学校1年生から本格的に学びますが、現在は小学校入学前に幼稚園で先取り学習をするのが普通となっています。ベトナム語は母音と子音のアルファベットに声調記号を組み合わせた文字で、組み合わせの数だけで言えば日本語のひらがなとカタカナの数よりも圧倒的に多いです。そして初めて文字を学ぶ上で、日本とベトナムの決定的な差は発音の練習でしょう。ベトナムではとにかくこれら全ての発音を正確に言えるようにひたすら幼児に音読をさせます。私の子どもが通う幼稚園では実際に音読しているところを先生が動画に撮り、苦手な発音を洗い出した上で保護者にフィードバックをします。そして先生から指摘を受けた音については自宅でも意識的に教え、子どもの発音矯正を行います。自分自身を振り返ってみても日本語の発音をそんなに一生懸命練習した記憶はありませんので、いかにベトナム語の発音が難しいかが分かります。ベトナムで生まれ育った5、6歳のネイティブでさえそれだけ努力して発音を習得するわけですから、大人の外国人が1、2年ベトナム語の発音を少し練習したとしても、うまく言えないのはむしろ当然だと言えます。

大人になってからも発音に苦労することも

子どもの言語獲得能力は優れたもので、幼少期からベトナム語の環境にいれば誰でも発音をマスターしますが、今度は聞き取りに苦労する場面が待っています。ベトナム語の発音は地域差が激しく、日本の地方間の違いという次元ではありません。文字そのものの発音が違ったり、声調なども異なる特徴が出ます。特に中部の発音は中部以外のベトナム人にとって聞きとりにくいとされる代表例で、中部人同士が電話で話をしていると何を言っているのか分からないという話もよく聞きます。また一般にハノイのベトナム語が標準語とされますが、もっと細かく見ると同じハノイでも地域差による若干の違いがあるもので、それは他の省でも当てはまります。大学などで地方から上京してきた学生の中には田舎の発音でそのまま話すのを何となく恥ずかしがったり、洗練されていないと感じたりすることがあるようで、都市部の発音に合わせてコミュニケーションを取っている人も珍しくありません。この辺りは日本の大学生や都市部に住む地方出身者にも当てはまるでしょうか。

以上のようにベトナム語の発音はベトナム人にとっても日常で意識されるものであり、生涯にわたって聞き分けが求められるものとなります。ちなみに、旅行などでベトナムに来て即席で覚えたベトナム語を言っても全然通じなかったというのはよくある話ですが、基本的にベトナム人は外国人がベトナム語を話すと思っていませんので、発音の問題と相まってより分かりにくいそうです。

著者

稲田 琢磨

SESSA VIETNAM CO.,LTD代表

プロフィール

ベトナムで7年ほど人材関連の仕事に従事し、2021年人事コンサルティング会社SESSA VIETNAMを企業。「人材紹介」「人事労務相談」「労働許可書取得代行」などのサービスを中心に企業、求職者向けの人事コンサルティングを展開。
日常でベトナム人を観察しながらベトナムの「なぜ・なに」を考えるのが日課となっている。座右の銘は「為せば成る、なるようになる」
【公式HP】https://www.sessa-jp.com

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